生酛 と 山廃 について
【日本酒の豆知識】
◎生酛(きもと)と山廃(やまはい)について
~ともに酒母 (酛もとも同じ意味)の造り方の一つで、昔ながらのやり方です~
酒母とは、大きな仕込み桶でお酒を仕込む前に、小さな仕込み桶でお酒を仕込みその中でアルコール発酵に必要な酵母菌(イースト)を育てたものを指します。ですから、酒母の段階では、元気な酵母菌を増やすことが第一の目的です。
酒母は麹米、蒸米、水に酵母を加えて造ります。この時空気中からいろいろな微生物(ここではあえて雑菌と呼びましょう)が入ってきます。
それらの余計な雑菌の繁殖は抑えて、優良なお酒の酵母だけを増やしたい、そこで強い味方になるのが「乳酸」です。
乳酸は今では液体になって市販されていますので、酵母を入れると同時に、乳酸を投入すればよいのです。これは戦後に普及しました。このやり方を①速醸酛(そくじょうもと)、といいます。
しかし、昔は乳酸は売っていなかったわけですから、どうしていたのかというと・・・
自然界に存在する乳酸菌を取り込むために米や米麹を擂り潰し、溶かして、乳酸菌が発生しやすい環境を作ってじっと待っていました。米を擂り潰す作業は「山卸(やまおろし)」、もしくは、「酛すり」とも呼ばれ、今でも大勢で行う重労働です。
酒屋唄の中には「もとすり唄」もありますが、眠気覚まして活気付くためと、時間を計るために唄っていたのでしょうね。
このように山卸作業を行うのが②生酛(きもと)造りです。この方法は、江戸時代のはじめ、つまり、17世紀の後半に出来上がった醸造方法で、とても歴史があります。
③山廃(やまはい、山卸廃止酛)造りは、米をわざわざ擂り潰さなくても蒸し米を投入する前に、先に水の中で麹の酵素を溶かして置くこと(水麹 みずこうじ と呼びます)、つまり、材料の投入順序を変えることで同じ様に出来ることが明治期後半になってから分かりました。また、山廃造りと同時に現在主流の速醸酛造りも考案されています。
キツイ作業をしなくて済む、嬉しかったでしょうね。
すなわり、「山卸」を「廃止した酛」、これを略して山廃(やまはい)、というわけです。
酒母が出来上がるまで、①速醸酛が約2週間で出来るのに対して、②生酛・③山廃酛はひと月かかります。
②、③は、速醸酛で仕込んだ酒より、より自然界の味わいが活きており、味に幅があります。速醸酛造りは、透明感のある酒質に適しています。
(乳酸やアミノ酸が多いので、お燗向きでも)
また、火入れして寝かせたお酒はお燗するとまた格別の旨さです。